林 信行さんのおすすめのデザイン 1
「CRACKED PAPER」小玉 文

子供の頃、紙細工を見ると湧いてきたワクワクする感じ——福永紙工との出会いは、この感情を大人な私に再びに芽生えさせてくれた。同社の作品(製品)が並ぶお店に行くと、何度も見てよく知っているはずなのに、再び1つ1つ眺め、友達と一緒だと「知ってる?」と教えてくなってしまう。
 このワクワクを生み出す秘密の半分が、妥協せず高い品質で紙を加工する同社の職人魂だとしたら、もう半分はさまざまな面白いクリエイターと組んで、これまでになかった紙の新しい可能性を引き出す挑戦を続ける精神だと思う。
 このチャレンジ精神がもっとも色濃く反映されているのが「紙工視点」の作品群だ。
 どれも甲乙付け難く好きで1つを選ぶのは難しいが、他の人に福永紙工の魅力を伝えたい時、一瞬で伝わるのが小玉文さんと開発したCRACKED PAPERだろう。
 他の多くの作品が、紙の見過ごされている特性を引き出して新たな可能性を見せているのに対して、CRACKED PAPERは真逆で最も「紙っぽくない」姿を目指している。見せた相手のほとんどが、すぐには紙だと見破れない。
 福永紙工の精巧な加工技術と小玉さんとの間で、どれほどの試行錯誤が繰り返されたのかは想像もできない。もし両者が少しでも妥協していたら、ここまでの見た目にはならなかっただろうと思う。この最も紙らしくない作品を世に生み出したことで福永紙工は、紙の可能性をさらに押し広げることができたと感じている。
 だから、数点に絞って選ぶことなんてできるわけのない福永紙工のお気に入り製品の「いの一番」に紹介させてもらった。

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林 信行さんのおすすめのデザイン 2
「DOT ANIMATION CARD」内藤 繁樹

たくさんの穴が開いた封筒からカードを引き出すと、花火のアニメーションが表示される。中の紙を逆さまにして入れ直すと今度は「HAPPY BIRTHDAY TO YOU」の文字がアニメーションで現れる。パラパラ漫画ともまた違う紙のアニメーション。なんとも楽しくワクワクする。
 ドット絵っぽいところがちょっとデジタルっぽい。昔の携帯電話の動く絵文字のようだけれど、それを手動で動かすところに暖かみも感じる。こんなシンプルな構造で、ここまでのワクワク感や感動を生み出せるのだと衝撃を覚えた。
 仕事柄、自分は「デジタル系の人間」と思われていることが多い。そんな相手の誕生日などには、差出人を書かないでも「デジタル」を感じるこのカードを贈らせてもらっている。実はその背後には相手に「デジタルはデジタルでも、アナログの良さを知っているデジタル系の人間だよ」と知って欲しい願いも込めている。
 後にこの作品が、現在はインハウスデザイナーとして活躍する内藤繁樹さんが、かみの工作所のペーパーカードデザインコンペに応募し優勝した作品だと知り再び驚いた。
 福永紙工が有名クリエイターと組むだけでなく、コンペなども開催し、紙の面白さを追求しようとしている姿勢に改めて感心した。
 たまに国立新美術館限定バージョンなどの新作が登場しているようだが、今後もそのようなコラボや限定の新作カードがもっと登場することを密かに期待している。

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林 信行さんのおすすめのデザイン 3
「空気の器」トラフ建築設計事務所

定番過ぎるし、他の方々も取り上げるだろうから自分は取り上げるのをやめようかとも思った。しかし、やはり、福永紙工の製品を語る上で「空気の器」ははずせない。テラダモケイを含む福永紙工の製品は、「空気の器」以前にも色々と目にしていた。しかし、同社の製品として初めて意識し向き合ったのが「空気の器」だった。
 製品が誕生した2010年は、iPad誕生の年で全国を巡ってほぼ3日に1度のペースで講演をしており、あまり製品を知る機会がなかった。翌2011年、開発したトラフ建築事務所が主催した「空気の器」のワークショップに参加して初めて、「空気の器」の買ったばかりの状態を知り驚いた。ワークショップが進むにつれ裏表が違う色、違う模様だと開き方(伸ばし方)に応じてさまざまな表情を見せることを知った。こんなシンプルな構造でここまで表現力豊かなものが作れるのだと感動した。カゴのようにして立てておくこともできれば、ワインボトルを包んで紐で結んでラッピングにと使い方がアイディア次第という自由さにも「紙製品らしい」魅力を感じた。
 その後、新しいバリエーションが登場する度に、これは開いてみるとどのように見えるのだろうとワクワクさせられている。
「空気の器」がもう好きなもう1つ理由は、この製品が日本の製品に誇りを抱かせてくれるからだ。「空気の器」は日本国外でも私が大好きなミュージアムショップやセレクトショップ定番商品となっている。ニューヨークのMoMAに行っても、ミラノのかなり個性的なセレクトショップ、ロッサナ・オルランディに行っても特別な存在感を放っており、世界の人が愛してくれる「日本のものづくり」は、電気製品と伝統工芸だけではないのだと教え、勇気づけてくれる。

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PROFILE

林 信行

フリージャーナリスト / コンサルタント

テクノロジー、デザイン、アートの領域で22世紀に残すべき価値を模索し発信。1990年、テクノロジー系ジャーナリストとして活動開始。パソコン業界を築いた技術者やビジョナリー、アップルやグーグルなどIT大手企業の創業者/経営者/エンジニア/デザイナーなどを多数取材。インターネットやスマートフォンの普及の最前線も追った。2007年頃からは家電メーカーや通信会社、ITベンチャーで講演やアドバイザリーボードなどに参画。2010年頃からテクノロジーは必ずしも人を豊かにしてはいないと考えを改め、良い未来を生み出すデザイン重視の姿勢の啓蒙に傾注。デザインエンジニアリング教育を広めるダイソン財団の理事やグッドデザイン賞の審査員にも就任。AI時代の足音が聞こえ始めてきた2015年頃からは課題解決を探すデザインのアプローチよりも、課題や問いそのものを探すアートのアプローチが重要とコンテンボラリーアートの取材に傾注。「TwitterとiPhoneはなぜ成功したのか」、「ジョブズは何も発明せずにすべてを生み出した」など著書多数。リボルバー社社外取締役。金沢美術工芸大学名誉客員教授。